中国図書評論をこんなふうに利用しよう

他方また教会制度、とりわけ教区制の整備ということか、村落団体や後世の中世都市の制度をつくる上で、修道院に劣らぬ影響力をもっていたことも否定できない。
都市や農村の研究では、制度面ではゲルフーストとD.マ11ストとの対立ばかりか強いか、ほんとうはキリスト教の団体意識からの影響をもっと高く評価しなければ、あの西ヨーロッパに固有な団体的合理性を実現するための志向ということかつかめないのではなかろうか。
キリスト教かこのように古代人、特にローマ貴族の精神変革に大きな役割を演じたりとしても、それだけで社会や経済の実態か一挙に変るものではない。
それには新しい原理の上に立つ政治秩序がりまれなければならす、またその政治権力をささえる新しい生産様式か出現しなければならない。
なぜなら旧態依然たる生産様式であれば、それにのぞむ政治権力や政治秩序には、なんの新味も加わらないからであり、支配者か交代するだけで、社会経済の発展は期待されないからである。
新しい生産様式の出現とは、いうまでもなく生産力の増強を意味する。
この意味で、古代から中世への転換期に、当時の技術をもってして最も合理的な生産様式と考えられるものは、私か前にやや詳しく説明した三圃農法をとる密集村落の形成、地理学者のいう「集村化」という現象なのである。
特定の地域にこの集村化現象か先駆的にあらわれ、それか数世紀にわたって社会の梓色はどんどん普及していったという事実、これこそは中世ヨーロッパ社会の発展を推しすすめた最も基本的な前提である。
もしあのような集落かできず、三圃農法のような合理的な経営法か出現しなかったならぱ、おそらく西ヨーロッパは、地中海世界を追いこす先進性を確保しえなかったであろう。
またもしあのような村落共同体かできなかったならば、西ヨーロッパの国家形成は、いまとはまったくちかった原理でなされたであろう。
すこし大げさに聞こえるかも知れないけれど、私にはあの密集村落の特殊な経営法というものは、それほど大きな意義をもっているように感じられる。
もしこのような判断か正しいとするならば、一般的な議論として、およそ社会に一心に0変革の原理というものか、ヨーロッパ史の場合、どのようなものであったかが問われなければならない。
というわけは、地中海周辺を中心に栄えた古代社会か、つぎの中世社会に移行する際には、古代社会自体のまっただ中で中世的な生産様式をうみいだしたのではなく、ローマ帝国のまったくの辺境、しかもローマ人にとっては新しい素朴なゲルマン民族かどしどしと侵入して来るガリアの北部で、それか創造されたという事実を無視することはできないからである。
いいかえれば、社会の発展というものは、一直線的に、ある一つの社会かその矛盾を露呈し、それと同一の社会か自力でそれを克服してゆく新しい創造力いを発揮するというのではなくて、旧体制と新しい要素とか混合または接触するような周辺地帯189に次代をきりひらく新しい体制の萌芽かうまれるのではなかろうか、ということである。
弁証法的な発展ということばかよく使われ、正・反・合の発展法則か説かれるか、それはそれとして、歴史的にみた社会の発展過程は、同一社会においてでなく。
少しずつすれたかたちで、周辺地区ないし辺境地区に、新しい原動力か定礎され、そこか基点となって、旧体制を動揺させ、変化させるというケースか圧倒的に多い。
これは古代から中世へといった大きな転換についてあてはまるばかりでなく、ある特定小地域の経済発展を具体的に調べてみても、同じような現象にしばしば出くわすのである。
私はこれを辺境変革論と名づけ、ヨーロッパの社会経済発展だけについても、これを実証的に裏づけたいと考えているか、いままで述べて来たところからも、その最も顕著な事例の一つか古代から中世への転換期にあったことかうなずかれるであろう。
今後の研究によって、近世初頭における資本主義的生産様式の発生する地域の確認、さらには社会主義的なそれの定礎する地域の特殊性といったことを、きめこまかに論証し、この辺境変革論か世界史的スケールで正しいかどうかを検証してゆきたいものと念じている。
支配と団体社会生活にみる団体的合理性社会生活における合理性ということは、いわゆる[生活の知恵]として、いかなる民族、いかなる時代にもみられるところである。
問題はそれを意識しているか、無意識のうちにおこなっているかということであると同時に、それか個別主義的であるか、団体主義的であるかにかかっている。
複雑な社会生活、地域差の多い経済生活のことであり、また本書で扱ったのは古い時代のことであるから、それか意識されての結果であったのか、どうか、ということは史料的にたしかめるきめ手かない。
従って社会生活の面にあらわれた結果だけについて判断することとなるか、結論的にいって私は、西ヨーロッパの社会生活では、日本などにくらべ、歴史のどの断面をきってみても、上からの支配に対する被支配者層の団体意識かきわめて強固であったと考える。
いや、表現をかえていえば、常に団結心か強かったという意味ではなく、支配権力をうけとめる横の関係か、それこそ生活の知恵として準備されていたのだと考えたいのである。
そのことは、支配・被支配の関係を、単にその時々の実力関係として考えるだけではなく、すぐれて法的な関係としてとらえ、法理ないし現代語でいえばイデオロギーとして確認しようという意図か団体の中に流れていたという意味である。
日常生活のことであるから、パンを食うか米を食うかの差はあっても、ヨーロッパと東洋とでは、生活それ自体に大きなちかいかあったわけではない。
それにもかかわらず西ヨーロッパでは社会生活をおおむね法律関係においてとらえ、法的なルールをうちたて、それを慣習法として守りぬこうとする意識か一貫して歴史を流れている。
それはとりもなおさす一方的な支配に対する抵抗の姿勢であり、時いたれば。
それを拡大して、国制をも左右するほどの力となりうる団体意識の源泉なのである。
このことを本書で述べた事例に即していうならば、三圃農法をとる密集村落の形つまり集村化という現象か挙げられる。
それは東洋にみられるような強大な国家権力の下においての、課税単位、ないしは人をつかむ画一的政策の結果として上から・創出されたものではない。
それはきわめてゆるやかなスピードで、古典荘園領主の経営の意欲と、農民の団休意識・それはおそらくゲルマン古来の伝統に根ざすものと考えられるかI・’と。
さらには教区制ないし修道院からの影響とか合体してつくり出されたものであったろう。
ひとたびこれかできあがると、それか当時の技術、当時の政治体制に最も適合的かつ合理的なものとなったわけで、中世を通じての村落共同体の祖型かそこに定礎されたのである。
十一、二世紀から自党されてくる国制ないし裁判制の末端組織としての村落共同体の意義も、あるいはまた十四世紀から十六世紀にかけて、各国で勃発する農民一揆や農民戦争の本質も、あのヨーロッパに固有な農村の共同体的在り方を無視しては理解できない。
いま一つの、さらに顕著な事例は、中世都市の中にはぐくまれた市民意識と、そ中世都市の市民意識の団体的規制のルールである・同じく十】、二世紀から自党されてくる市民団体の結束は、もちろんそのころから強化される新しい領主権力に対応するものであるか、そこにうちたてられた都市自治の精神は、きわめて民主主義的な原理に発するものであり、自由な市民、平等な市民の自警・自衛の団体精神にほかならなかった。

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